墓参り。


世間は三連休。
部屋に居ると、思った通り気がふれそうになったので
外に出て原付を走らせる。

照りつける残暑の光に両腕を焦がしながら、連雀通りを東へ東へ。
まだ馴染みの薄い町並みが流れる。
東小金井、武蔵境を越え、三鷹の文字が見えてくる。
ふと交差点の看板に目をやると「禅林寺前」と書かれている。

ああ、ここにあったのか。

僕の好きな昭和の作家が眠っている寺だ。
原付を停めて歩き出す。
今日は葬儀があるらしい。黒服の男たちが慌しく通り過ぎる。
寺道を越えて突き当たりにさしかかると、いきどまりだ。
あれ?と思った。墓はどこにあるんだろう。

だが小さい看板に案内がかかれており、墓までの道はすぐわかった。
細い古道を通り抜けた先にあるのだという。

墓場は小奇麗に片付いてはいるが、閑散としており、実に寂しい。
奥のほうで一人の老人が丁寧に墓を磨いているのが見えた。
近くまで歩く。
ふと左をみると、そこに目当ての墓があった。

「太宰治」

あまり美しくない文字でそう彫られた墓標は、実にこじんまりとしたものであった。
大きさや様式も一般人のそれとなんら代わらず、
その隣には「津島家の墓」と書かれた墓標が並んでいる。
側面には「津島修治 昭和二十三年六月十三日」と刻まれていた。
桜桃忌は十九日だが、あれは遺体発見日だという。
太宰が入水した玉川上水は、当時立派な川だったそうだが、
今ではたった幅三メートルほどの小川である。
上京して初めてみたときは、その小ささ浅さに驚いた。

斜め向かいには森林太郎の墓があった。太宰が敬愛した明治の作家「森鴎外」だ。
近くに葬られて喜んでいるだろうか。存外、恥ずかしがっているのかもしれない。

バケツに水を汲んで、墓に流す。
添えられた花束は、まだ新しい。

僕は宗教観念が希薄なので、こういうことは滅多にしないのだが、
この時は手を合わせて、こう念じた。


「いつも楽しく読んでおります」





帰りは原付を西へ西へと走らせる。
夕暮れ時の太陽がとても眩しい。
帰ったらギターのゲージを張り替えよう
などと思いながらアクセルを吹かすと、
三鷹の町並みが少しだけ馴染み深くなったような気がした。

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榎本よしたか

Author:榎本よしたか
フリーランスのイラストレーター兼法廷画家です。書籍やテレビ番組用に絵を描いています。アコースティックギターと歴史雑学が好きです。

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