「ノルウェイの森」と雪化粧。


村上春樹という作家の作品を、僕は一度も読んだことがなかったのだけれど、何度か人に薦められて書店で手にしたことはあった。「海辺のカフカ」は冒頭だけ読んで、「少年文学かな?」と思って元の場所に戻した。何冊か手にとったのだけれど、購入するに至らなかった。
少し前に別の人に「ノルウェイの森が面白いよ」と聞かされたので、同じく書店で手にとり、最初のほうを読んでみた。少し興味が沸いたので購入した。同時に買った「ミッドナイトイーグル」を先に読んだので(これは映画同様傑作だった)、購入してからずいぶん経ってから読み始めた。

現在、僕は96ページしか読んでない。上巻の三分の一といったところか。ここで読むのを辞めてしまった。もう、たぶんこの先は読まない。

主人公は37歳の男で、ふとしたキッカケから18年前の出来事を思い出す。大学生の寮生活や、自殺した親友の彼女だった直子との会話などを読んでいると、「ああ・・・所謂恋愛小説だったのか」と気づく。僕の最も苦手とするタイプの小説だ。何故苦手なのかは自分でも説明がつかない。若者の恋愛話を糞真面目に語られると、どうもイライラしてしまう。この物語の主人公もえらく真面目に自身の心理描写を克明に描く。青臭く、未熟な、少し思い上がりのある、若者特有のモノの見方をしている。それでも親友キズキの自殺以来、一年ぶりに再会する直子とのピュアな付き合いには好感を持って読んでいられたのだが、永沢という東大在籍の先輩と会うあたりから、主人公は女遊びを覚えるようになる。永沢にナンパなんて簡単だよ今度一緒にしにいこうよ、と誘われた主人公曰く、「僕はそのときの彼の言葉をまったく信じなかったけれど、実際にやってみると本当に簡単だった。(中略)適当な女の子の二人連れをみつけて話をし、酒を飲み、それからホテルにはいって(後略)。」そんなことを数回続けたあと、「空しい」と呟き、「僕にも彼女がいれば他のつまらない女となんか寝たりしないだろうと思った。」と言う。

僕は文庫を放り投げた。不愉快だったからだ。やっぱり駄目だ。僕は青春文学など嫌いだ。恋愛小説など読めない。僕は不純異性交遊を死ぬほど憎悪しているのだ。汚らわしい。見苦しい。

何故僕がこれほど憎悪を覚えるのか、その理由は僕にも分からない。愛しても居ない人と肉体関係を持つ、ということが強盗殺人に匹敵するほどの罪悪に思える。「まあまあ、若いんだからそういうこともあるさ」と思いながら他の読者はこの部分を読み進めるのだろうか。僕にはできない。不潔すぎる。小説で強盗殺人のシーンがあってもこれほど不快にならないのに、こと不純異性交遊となるとこれほどの嫌悪感が生まれる理由はなにか?単に僕がそういう経験をしてこなかったからか?原始的な嫉妬か?「青春」を一瞬でも意識せずに生きてきたからか?「思春期」すら微塵も無かったからだろうか?

主人公は、ナンパして一夜を過ごした相手を「つまらない女なんか」と言い捨てる。これは酷い。たしかに会った日に一夜を過ごす女性も女性だが、男の心のありようとして、それは畜生にも匹敵する下劣さだと思う。主人公は一夜を過ごした相手を愛していなければ恋さえしていない。行動原理は肉欲だけのようだ。

そこで僕は恋愛とは何か、と考える。「恋愛」という言葉はそもそも造語で、日本には「恋」と「愛」という別々の言葉しか存在していなかった言われている。「恋」は性的衝動に基づくものであるに対し、「愛」は全く打算なく損得勘定なく、与え、受け入れることであろう。「恋愛」は明治中期に輸入された概念であるそうだ。「友情」なんて言葉もそもそも日本にはなかったらしい。
「恋愛」の愛の一字は、その美名に依って「恋」の卑猥感を隠蔽せんとするたくらみがある、という見方もあり、首肯できる意見だ。

つまり、「愛」と「恋愛」はその性格が根本において違っていると考える。キリストの教えに「汝を愛するが如く汝の隣人を愛せよ」という有名な句があるが、この場合の隣人は「敵」を意味してるのだという。「敵」の意見を受け入れ、与えることが出来れば争いもなくなる、という教えだというのだ。これを「愛=恋愛」という次元で語ったとき、「敵に恋せよ」ということになってしまい、意味不明になる。

また、男女の契りとは、結婚初夜に初めて行われるものだと僕は28歳くらいまで固く信じていたのだが、紆余曲折を経て、ようやく「愛し合う男女が行う行為」という理解に落ち着いた。ここに至るまで本当に様々な壁があった。最初のこの考え、(倫理観といっていいだろうか)を貫くにはあまりにも苦しかった。世の中の流れと完全に逆流し、周囲を軽蔑の眼差しで見なければならなかった。「恋愛」というものが正体不明の不気味な感情のように思え、震えていた時期が僕にはあった。笑わば笑え。僕は大真面目だったのだ。

「愛小説」、と言うジャンルがあるなら、それは僕好みの美しい話のように思えるが、「恋愛小説」は駄目だ。放り投げた文庫を再度手にとってしばらく読み進める。この後、主人公はピュアな関係で居た親友の恋人とふとしたことから一夜を過ごす。その理由を「そうするしかしかたなかった」と話す。そして「彼女は僕のことを愛してすらいなかった」と後に哀しむ。全く持って理解不能。

この物語はこの先もどんどん進んで主人公はさまざまな経験を積んでいくのだろう。ウィキペディアによるとその後同じ講義を受ける女性と付き合い、「なんとなくキス」をする、などと書かれているが、その先はもはや僕は何の興味も持てない。だから96ページから先を読むことは無いと思う。こういう作品が恋愛小説の金字塔などと呼ばれている以上、この先もやっぱり恋愛小説を読むことは無いだろうし、恋愛映画も見ないだろう。

今日の東京は珍しく雪化粧。今朝からしんしんと降り注いだ雪は車や屋根を白色に染めている。ついさきほど雨に変わったようだ。思った以上に雪が長く降ったと予報士がニュースで告げる。この雨は次第に雪を解かしていくだろう。
それと同じように、この恋愛描写に対する嫌悪感や、偏狭すぎる性への僻見も、いつか雨に打たれて解けて無くなるのだろうか。そうなったとき、僕は今の自分をどう思うのだろうか。

どんよりと暗くなんの芸もない雨雲を眺めながら、とりとめもなくそんな事を考えるアンニュイな昼下がり。いつにも増して強い孤独感が支配する中、口にするのは現実的なこの言葉、

「さて、休憩おわり。仕事しようっと。」

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榎本よしたか

Author:榎本よしたか
フリーランスのイラストレーター兼法廷画家です。書籍やテレビ番組用に絵を描いています。アコースティックギターと歴史雑学が好きです。

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